マチノコト

2015.3.27

アートによる問いかけを通じて見直す地域の姿ーー地域と個人の関わり方のこれから

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マチノコトは、2011年に東北で起きた震災で被災した地域のひとつ、福島県いわき市にキャンパスを構える東日本国際大学と協力して、各領域の先端で活動している実践家と現場の視点を共有する連続イベントを開催しました

連続企画イベントの第3回となる「「地域に問いをたてる」〜〈郷土・地域〉とは何かを考える〜」は3月2日に開催しました。第1回は「コミュニティ」について、第2回は「行政とテクノロジー」というテーマで開催してきた連続イベントの、最後のテーマは「アート・デザイン」。

近年、日本各地で開催されるアートプロジェクトの数が増えています。「アート」は、その土地に住んでいる人たちが普段当たり前だと思っている風景や物事を再認識したり、別の角度から見てみるようになるきっかけとして注目されています。

第3回では、そんな地域に新たな視点をもたらす「アート/デザイン」という方法を用いて活動している2人のゲストをお呼びし、お話ししていただきました。

“わたし”からはじまる表現(アート)が想像力を広げる

最初のプレゼンターは、現代アートで地域をプロデュースするinVisible(NPO法人立ち上げ準備中)の林曉甫さん。

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大分県別府市で学生時代から地域活性の活動を行い、大学卒業後、大分県別府市を活動拠点とするアートNPO「BEPPU PROJECT」のメンバーとして、アートプロジェクトに参画。現在は、さまざまなアートプロジェクトを手がけるフリーランスのプロジェクトマネジャーとして仕事をしています。

林さん「基本的にプロジェクトでは、アート作品を生み出すということを一義的な目的としています。ただ、まちで開催される多くののアートプロジェクトの場合は、作品の制作や展示を空き店舗や商店街で行うため、多くの人と関わらなければいけません。そうすると地域の人たちと価値観を共有しなければいけないので、結果としてプロジェクトを通して地域が活性化されていきます。」

林さんは簡単な自己紹介を終えた後、自身の手がけた事例を紹介。まずは、2014年に事務局長を務めた大分県別府市で3年に1回行われる現代美術のフェスティバル「混浴温泉世界」。

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このプロジェクトは、3年かけて準備していく中でアーティストがさまざまな方法で別府に訪れ、マチの人と繰り返し顔をあわせます。繰り返し会い、別府という場所の経験やそこで語られる物語を増幅させていく中で、作品をつくっていくアートプロジェクトです。

また、若い作家が作品をつくる機会を生み出すために、賞金100万円のコンペティション「BEPPU ART AWARD」についても触れていました。

林さん「このアワードの受賞作の一つ、別府に地下道があるという都市伝説をもとにした作品がありました。アーティストが別府をフィールドワークすると、地元の人から絶対ないと言われていた、地下道が存在していたんです。

そして、その洞窟の中に絵を描いて美術館に見立て、Googleのパートナー・ミュージアムが所有する美術品を高画質で鑑賞できるサービス「google art project」の仕組みをつかって、地下道を仮想冒険する作品を発表しました。

この作品は、発表されると、なぜこの作品が出来たのかという好奇心を喚起すると同時に、現実に自分たちが暮らしている土地の下に空洞があるってことはそこの家大丈夫か?というような次の社会問題を生んでしまう可能性のある非常にセンシティブ作品でした。」

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別府には1957年に建設された別府タワーという街を象徴するタワーがあります。商店街に小さなタワーを立てて、参加者には地図を持ち歩きながらタワーを探してもらう「バベルの塔イン別府」というアーティストの小沢剛さんの作品もありました。

また別府タワーは「アサヒビール」という6文字のネオンサインが輝いています。この6文字の組み合わせの中には、いくつの外国の言葉があるのかをネオンサインの点灯で表現することで、様々な国籍、人種、宗教が入り乱れる別府というマチを表現する作品もありました。混浴温泉世界については、コロカルに作品紹介などが記載されています。

アーティストが地域で暮らす

次に、現在総合ディレクターとして関わっている鳥取藝住祭では、鳥取県全域で一定期間アーティストにその地域に住んでもらいながら、地域の人たちと一緒に作品をつくっていく「アーティストinレジデンス」というプログラムを紹介。

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林さん「昔、吉田璋也という、柳宗悦の民芸運動に共感して活動していた鳥取県出身のお医者さんがいました。民芸運動とは、日常的な暮らしの中で使われてきた手仕事の日用品の中に「用の美」を見出し、活用する日本独自の運動のことです。彼は「美」を社会に入れていくことによって世の中よくなっていく、という思想を持ち、様々な取り組みをしていました。

鳥取でかつてこうした運動をしていた吉田璋也にならって、このプロジェクトでも、「日常の中に美をどう持つか」「ある種の違和感をどう取り込むか」ということを考えながら、地域の人とアーティストが向き合いながらプロジェクトをすすめています。」

一般的な芸術祭には総合ディレクターがいて、その人がコンセプトを決め、それに合わせて作家を選んでいくそうです。ですが、このプロジェクトはそれとは異なるやり方を取っています。

林さん「このプロジェクトでは、ぼくが総合ディレクターを担当しています。ですが、ぼくが選んでいる作家は1人か2人なんです。後は、地域の各団体が呼びたい表現者を呼んでいます」

こうすることによって、それぞれの作品も、表現者と地域との間に生まれる関係性も、全く異なるものができるんだとか。このプロジェクトは今年の経験を踏まえた中で、来年、再来年と続けていくそうです。

アートだからできること

様々な具体例を紹介し、最後に「アートだからできることってあるんですか?」という問いに林さんが答えます。

林さん「一つは、人間の想像力を拡張させる役割です。それは例えば、他人を理解する、他人を受け入れるために、意見が違う人がいる現実に気づかせるということなのかもしれません。

あと、アートは作家が生み出すことも、対話をしながら生むことも、“わたしたち”という2者以上の間での合意形成の前にやっぱ“わたし”って主語があると思うんですよね。だから、WeではなくI、自分を主語にして話す、ことにいろんな可能性があるなと思っています。」

「もう一つは、場所にこだわらず、場所にこだわる、ということ。「特定の場所でしかつくれないもの」を作ってくださいとお願いすることがあるんですけれど、そうすると逆にアーティストの想像力を縛ってしまう。

でも、アートが持っている普遍性は、特定の場所を離れても、なんとなくおもしれーじゃんって思ってもらえるようなものかと思います。なので、場所にはこだわるんだけど、場所にこだわらないようなカタチで、作品をつくり、広めていくことで、人間の想像力を人がどんどん拡張させられれば、と思います。」

あたりまえにあるものの関係を問い直し、つなぎなおす

次のゲストは、古屋遥さん。古屋さんは、企業の課題をアイデアやデザインで解決することを仕事にしているフリーランスの演出家・クリエイティブディレクター。前職では「太陽企画」という映像の制作会社で企画演出、映像と空間の企画演出、店舗デザイン、ブランディング業務を経験し、フリーランスに。

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肩書にも使っている「演出」という言葉は古屋さん自身の背景から来ているそうです。

古屋さん「家族の仕事の都合で、人生の半分ぐらいは海外で過ごしてきています。中1から演劇をやっていて、ドイツでパフォーミングアーツなどを学び、そのあとは、イギリスのブリストル大学の最古の演劇学部で学びました。

そこでは、「真実とリアリティの違いは何なのか?」とか「記憶はどうやって表現できるのか?」といった、実験的な空間づくりを行っていました。その後、日本に帰国し、7年前から太陽企画で仕事をやってきました。」

古屋さんは自身の興味関心を象徴する仕事をいくつか紹介。一つ目は、東京ミッドタウンにて行われた「スワリの森」という企画です。

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この企画のテーマは「科学」。科学に興味のない人に対して、体験を通していかに伝えるのかという課題に対して、「椅子」という切り口で取り組みました。一つの椅子につき、一つの科学の仕掛けを施しています。例えばハートの椅子は、二人が重心を揃えないと正しく座れないように設計され、そういった椅子をつくることで人が重心や体幹を意識するきっかけを生み出しました。

次に、古屋さんが渋谷都市開発のひとつに、プランナーとして入った仕事について。

古屋さん「これから先、渋谷に外国人が増えて行く中で、ピサの斜塔のように渋谷に来たら必ずこれやるよというようなアイコンとなる行為をつくろうとする仕事でした。プリクラマシーンをおき、そこで写真を撮ると、ビッグビジョンに自分の顔が映る、という企画の提案をお手伝いさせて頂きました。」

さらにもう一つ。30周年を迎えるあるブランドが、新しいお客さんを取れていないという課題を抱えていました。そこで古屋さんは、表参道に面している路面店に着目。この店舗を資産として使わない手はない、と企画を提案。道路に面した窓を”触れる”窓にして、閉店後にも遊べるお店を実現したそうです。結果、売り上げは150%に伸び、来客数は2倍になったんだとか。

古屋さんは自身の仕事を、こうまとめます。

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古屋さん「わたしの仕事には、テクノロジー、デザイン、映像、空間、様々なメディアと手法をつかって既存のものを再編集しているという共通点としてあるのかな、と思っています。

すでに存在しているものをアイデアだったり、デザインだったり、ソフトウェアだったり、インターフェース少し変えることで、どうやったら、新しく見せていくか、新しいお客さんとの接点を作るかを考える仕事をしています。伝え方を変えることで、どれだけ価値が再定義されるかは、「演出だなぁ」とも思っていて、今、自分は演出家だなぁ、と思いながら仕事をしています」

次に、古屋さんは、自らの仕事を支える“考え方”について、今回のイベントのテーマである「問い」に関係させながらこう語りました。

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古屋さん「今回のテーマは「問い」ということで、普段自分が一番大切にしている問いを一つ紹介します。通常、疑問詞は5W1H。わたしが企画アイデアを考えるときに大切にしているのは「what’s ifもしこうだったとしたら?)」です。想像の疑問視「もしも」という思想を大事にしています。これがものすごい発想につながっていきます」

この発想は、古屋さんがイギリスで演出を学んでいたときに学んだスタニスラヴスキーというモスクワの演出家の理論システムをバックボーンにしているんだとか。

古屋さん「いわゆる演劇空間というのは、そこに何かを再現することでしかリアリティが生まれないもの。つまり、全部嘘であるとも言えてしまう。その中で、いかに「信じられる真実」を作り出せるか、というのがスタニスラヴスキーシステムの骨子です。これは、想像力がものすごい早いスピードで昇華させていっている理論だなぁ、と思っていて、企画の考え方にすごく応用ができています。」

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古屋さん「例えば、まちづくりの場合、渋谷はどこを見ても、文字がものすごくたくさんあります。「もし、今から渋谷を作りなおすとして、この世に文字という概念がなかったら、どういう町になるだろうとかを考えたり、当たり前を当たり前じゃないかもしれない、と問い直すことによって新しい発想を生むんです」

最後に、星空のスライドを出した古屋さん。

古屋さん「星座ですね。そして、誰もが「オリオン座」がわかる。でも、「星座」という概念が存在する前には、ただの光の点だった時代があったはずです。星座がある星空を“ただの星空”に戻してみる。問いによって、今ある当たり前を一回壊し、もう一回光と光を結ぶ。そして、新しい線、面をつくっていく。こうした作業を担っているというのが、今のデザイナーや、林さん、みなさんに共通している部分だと思います。」

停滞しているという機会を楽しむ

二人のプレゼンテーションを受けて、先崎さんがコメントをします。

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先崎さん「お二人の話を、二つの観点からいささか強引にまとめようかと思います。

まず、震災後というのは、一種の善悪がこなごなに砕け散って、既存の秩序が崩れ去った時代です。しかし、今、あいも変わらず震災前と同じ価値観で穴埋めしようとしています。

震災後、新しい電力をつくろう、など様々なアイデアが出ました。そして、新しい時代がやってくるんだとか、これまでの戦後の成長は豊かさだけ求めてきたから違う価値観にしなきゃいけないとか、みなが口先で言っていたのに、現実は、全然そういうことにならない。

そういうときに、こういう人たちが新しいことやってくれる。このように、日常に停滞しているようなものの見方を変えたり、壊したりして、表現を変えるという試みによって、何か新しいワクワク感があるということ、これがまず1つ目。

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先崎さんもう一つは、例えば、今日イベントの参加者の多くがAppleのMacを使っています。これは見た目がかっこいいからですよね。高度経済成長以前は、経済効率に重きが置かれていました。ですが、現在は多少効率が悪くても、かっこいいものを選びます。現代では、内容よりもかっこよさ、デザイン、見せ方に重きが置かれるんです。デザインの時代にぼくたちはさしかかっているのでないでしょうか」

アートは、既存に“ある”ものを壊す行為なのか

話題は、アート自体について。先崎さんがゲストたちの活動を「壊す」と表現し、それに対してゲストの2人が応えます。

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林さん「個人的には、まったく壊している気がないんです。それより前に「ある」ということがなんなのかを、そもそも問わなければいけない気がしていて。例えば初めて、別府に立った瞬間の風景と、数年が経過して同じ場所に立った時の風景は、違うものに見えると思います。

それは、建物の経年劣化など物理的な変化も関係あるとは思いますが、そこに「ある」ものの見え方を変えているのは、自分の感情だったりすると思うんです。「もの」に価値があるとみるか、ないと見るかというのは、育ってきた環境や時間にも影響を受けるのかもしれない。

そもそも、壊す・壊さないの前に、ものが「ある」という言葉を問わなければなと感じています」

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古屋さん「実は「壊す」ということを大事なテーマにしているので「見抜かれた!」と思いました。ただ、壊した先に本質があって、壊した後にそれを修復する人の力に本能がある、そういったところに焦点を当てています。

「スワリの森」はまさにそれを象徴していて、座るとどっちかに傾いてしまう椅子みたいなものがあることで、普段座りやすいようにデザインされている椅子に対して「どうして椅子ってこんなに心地よくできているのか」という気付きや「なぜ人は座るのか」と疑問が浮かんだりして、人間の体のバランスを取る能力に気づくきっかけになります」

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先崎さん「ある既存の秩序。椅子であれば、普段気づかないで当たり前に座っていること。震災であれば、安全安心ですね。そういうものは普段意識しないものになっている。でも、そういうものが顕になり、砕ける瞬間を迎えて、「安全」というそれまで当たり前だったことはなんだったのかを考え出す。芸術は、日常について改めて考え始めるきっかけをつくっているんだと思います。

これは極めて重要なことで、震災からもし教訓を得るとしたら、そういうことを心の片隅に置くということだと思います。それを忘れると、既存の秩序をただ繰り返す、再構成する、それが緊張感を失っていくことにつながる。そういう意味でアート・芸術というのはおもしろいものと思いました。」

この後も議論はヒートアップし続け、あっというまに終わりの時間に。こうして、全3回のトークイベントは終わりました。

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第1回では、「コミュニティ」、第2回では「行政」、そして、第3回では「アート/デザイン」という視点でマチを考え、そして、それらを日本の思想という大きな流れの中に位置づけながら、「マチ」というものを多角的かつ俯瞰的に考えていきました。

マチの「発展」を目指すことはいいことですが、マチに住む一人ひとりにとって、マチの捉え方は異なるため、その「発展」の仕方も異なるはず。焦ることなく、一歩一歩、大地を踏みしめながら、マチと、そして、マチで暮らす人と考え、行動していくことが重要なのではないでしょうか。

行動することも重要。それと同時に、行動を振り返ったり、様々な角度から捉え直すことも重要です。これからも、マチノコトは、様々な角度から「マチ」というものを考えていく機会をつくっていきたいと思います。

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写真:加藤甫
協力:東日本国際大学

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