マチノコト

2015.6.4

対話する地域と企業ーー岩手県遠野市と富士ゼロックスの関係に学ぶ地域のみらいのつくりかた

集合写真

東日本大震災後、たくさんの企業による東北の被災地復興をサポートする取り組みが生まれました。

被災地のみならず地方は、高齢化や若者の都市への流出、地域産業の衰退、空き家の増加など様々な課題を抱えています。地域課題の解決に、都市圏の企業が持つスキルやノウハウがいいかたちで活かされることで、きっとよりよい地域づくりの動きは加速していきます。

そのためには、地域の持つ文化や人々の想いを理解し、地域の持つ可能性を引き出しサポートしていくことが大切です。そして地域づくりを協働で行っていくなかで、両者が共に学び成長し合いながら想いを実現していく「仲間」となっていくこともできるのではないでしょうか。

現在、岩手県遠野市でも、富士ゼロックス株式会社と協働した「対話」を用いた地域づくりが行われています。2015年4月8日には、遠野の中学生と首都圏で働く大人が語り合う「みらいの夢、地域のみらい対話会」が、横浜の富士ゼロックスR&Dスクエアで行われました。

横浜で遠野の中学生が夢を語る

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修学旅行の機会を活用して、4月8日に横浜で開催された「みらいの夢、地域のみらい対話会~Talk for Happiness~」。遠野中学校の新3年生になった124名が、富士ゼロックスR&Dスクエアを訪れました。

対話会は、中学生が1年間かけて深堀した自分の夢や興味のあることを、自分たちが暮らす遠野で実現するためのアイデアを、多様な大人と一緒に膨らませる場です。それと同時に、参加する大人にとっても「子どもの頃の夢」や「今の仕事の意味」を探るプログラムとなっていました。

当日は平日にも関わらず富士ゼロックス社内だけではなく、社外からも様々な業種・職種の社会人約130名が参加し、とても熱量の高い対話の場となりました。

舞台となった地域、遠野市とは

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富士ゼロックスが協働で地域づくりを行ってきた遠野市は、岩手県の内陸にある人口約29,000人の町。

農業や林業などの第1次産業がさかんで、日本一の生産量を誇るホップや葉たばこの産地ある遠野。柳田國男の「遠野物語」、河童や座敷童子などが登場する「遠野民話」で知られる地域のため、年間150 万人の観光客が訪れる観光地にもなっています。

グリーンツーリズムでも知られており、遠野の伝統的な民家である「曲り家(まがりや) 」が移築された「遠野ふるさと村」では、実際に山里の暮らしを体験することができます。

遠野市は、震災で津波による被害の大きかった大船渡市・陸前高田市から車でおよそ1時間の距離であるため、復興に向けたボランティア活動のハブとなった地域でもあり、災害時に後方支援拠点としての役割を担う地域でもあります。

たくさんの魅力的な地域資源のある地域ではありますが、その一方で若者の人口流出や地域産業の衰退など、他の地方のような課題を抱えています。

様々な地域課題を解決しよりよい遠野をつくっていくため、2012年より横浜市にR&D拠点を置く富士ゼロックス株式会社との協働が始まりました。

富士ゼロックスの遠野みらい創り活動

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富士ゼロックス株式会社は、東日本大震災後、被災地の復興支援に積極的に取り組んできました。そのテーマのひとつとして展開してきたのが、その地域の未来について考える「みらい創り」活動です。

2012年から始まった遠野でのみらい創り活動で中心となり取り組んできたのは、富士ゼロックスコミュニケーション技術研究所、復興推進室です。こちらの部署では、社会課題解決に向けて多様なステークホルダーが共通価値を見つけ、行動を起こすためのコミュニケーション技術を研究しています。

地域の可能性や課題を多様な人たちの対話によって発見し、そこから生まれたプロジェクトの実現をサポートをしていくみらい創り活動。

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多様な人々がコミュニケーションを取りながら共に活動していくために、遠野の人々との対話をとおして、お互いの考えを話し合い理解を深めていきました。

また遠野の文化を大事にしながら地域づくりを進めていくために、地元民家に宿泊する民泊で滞在しながら、地域に伝わる馬搬技術や伝統野菜を栽培する農家などにお話を聞き、地域の文化を深く知ることを大切にしたそうです。

廃校を利用した遠野みらい創りカレッジ

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遠野市の行政やNPO、市民との対話をくり返していくなかで、遠野市の未来を担っていく拠点として生まれたのが、「遠野みらい創りカレッジ」です。

遠野市の中学校の統合・再編により閉校になった旧土淵中学校校舎を活かしたこの施設は、遠野市の産業発展や文化継承、人材育成を目的として、2014年4月に開校されました。

ここでは、企業の新人研修や大学のゼミ合宿、まちづくりや教育など幅広い分野のセミナーを開催。そして、一般市民が自由に参加できる「オープンカレッジ」では、遠野市民や富士ゼロックス社員、遠野市外からも参加者が集まり、自分の実現したいプロジェクトや遠野市のまちづくりについて対話会を行っています。

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木製で暖かみのある校舎、学校だった当初の面影を残したままの机や椅子、黒板のある教室。

企業の人も地域の人も関係なく、幅広い世代がみんな一つの大きな円になって語り合う。

自然と対話が深まり参加者の笑顔が生まれるこの場所からは、これまで様々なみらい創りのプロジェクトが誕生してきました。

現在、遠野の伝統文化を海外に紹介し、生産物を輸出するなどの産業交流を始めようとするプロジェクトや、かつては牛馬の売買でにぎわった商店街を活性化させようとする、実践的なプロジェクトが取り組まれているそう。

遠野みらい創りカレッジでは、地域資源を活かした遠野の魅力を発信するとともに、遠野市内外の年代や分野を超えた人々の交流と協働を生み出しています。

遠野の中学生と考える地域の夢とみらい

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みらい創りカレッジの開校がきっかけとなり、富士ゼロックスは2014年3月から、遠野市立遠野中学校2年生の生徒たちと将来の夢と地域の未来をつくる活動を1年間実施してきました。これは総合的な学習の時間を活用した、キャリア教育プログラムです。

遠野中学校体育館で2年生と、夢ややりたいことを見つけ、深め、行動を起こすための「みらいを創る対話会」を定期的に開催。地域の様々な職場での職業体験も行うなかで、自分の夢や地域で実現したいことについて考えます。

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この活動から生まれたアイデアを、地域イベントや文化祭で地域のみなさんに発表する場も開催。プログラムが進んでいくなかで、生徒たちは自分たちのアイデアをより深めていきました。

遠野のよりよいみらいのために

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こうして1年の協働期間を経て開催された対話会当日は、ファシリテーションも中学生が担当。

まずひとりひとりが遠野の好きな風景の写真を持ち寄り、これが遠野の地図上でどこにあるか、どんなエピソードがある写真かを大人に話しました。

テニス部の大会風景、中学校の運動会のとき、子供のとき遠野のお祭りに参加した写真などをとおして、遠野という地域がどのような場所か参加者に伝えていきます。

その後は、中学生たちから生まれたプロジェクトを実際に地域で実現していく一歩を踏み出すため、参加者の大人と中学生でグループに分かれて話し合い、アイデアをブラッシュアップしていきました。

”遠野のおじいちゃんとおばあちゃんを喜ばせたいので、自分の好きな食を活かし、中学生が遠野の食材をつかって料理を振るまうイベントを開催したり老人ホームの献立をつくってみたい。どういう順番で進めていったらよいだろう?”

“豊かな自然がある遠野の魅力をPRするために、魚の手づかみ体験をしたい。どういう手順で許可を取り、どんな風に宣伝したらいいのだろう?”

大人たちは、地域への中学生たちの想いがつまったアイデアを一生懸命話す中学生たちの言葉に熱心に耳を傾けます。

そしてそのアイデアと悩みごとにたいして、「まず地域のこの人に頼んでみたら?」「関わるひとたちへのヒアリングが大切だよね」「最初は小さく始めてみたらどうだろう?」など、参加者からたくさんのアドバイスがありました。

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このアドバイスを活かして、これから遠野で中学生たちはアイデアを実現していきます。

最後には、遠野中学校の応援団が指揮をとり、中学生全員が大声で「ファイト!ファイト!富士ゼロ!」と富士ゼロックス社員に感謝をこめてエールを送る一幕もありました。

富士ゼロックスの堀田さんは、こう語ります。

対話会は生徒、大人双方にとって学びの多い場だったようです。「大人の方々と楽しく対話でき、とてもいいアイデアが出た。絶対実現したい」「新しい視点で知恵を出す事は刺激になった。子供達の将来のために大人はもっと頑張らなければと思った」との感想もいただきました。

地域と企業が「仲間」となって実現する地域づくり

集合写真
今地方は様々な課題を抱え、これを解決しよりよい地域をつくるためアクションを起こしています。地域と企業が協働してそれに取り組んでいくには、企業が一方通行の支援するのではなく、「共に地域の課題に取り組み、未来をつくっていくんだ」という共通の想いが必要だと思います。

遠野市と富士ゼロックスが協働していく中で、何よりも大切にしたことは「対話」です。

富士ゼロックスの堀田さんは、こう語ります。

自分達ができることを模索しながら何度も遠野に足を運び、様々な方々と対話することを通じて、いつの間にか1人のプレイヤーとして地域のみらいを考えている自分がいることに気づきました。地域課題の中には、対話による新しいつながりによって解決に向けて前進できるものが少なくありません。今後も対話を続けながら、地域と企業がともに成長する地域づくりの実現に貢献できればと思います。

1対1の人と人との関わりである「対話」というコミュニケーションを続け、理解しあっていく。

それによって企業と地域の協働という枠を超えた深いつながりが生まれ、「地域の未来をよくしたい」という共通の想いに向かう「仲間」へと変化していったのだと思います。

富士ゼロックスと遠野市が対話によってつくってきた、行政と教育機関、企業、地域の人々の有機的なつながりは、まさに人々が実現したいという想いの種を育てるための豊かな土壌づくり。

ここから様々なプロジェクトが生まれ、たくさんの人の協力関係によってよりよい遠野のみらいがつくられていくのでしょう。

この遠野のプロジェクトには、新しい「地域と企業の協働」のヒントと可能性が詰まっていると思います。

遠野市と富士ゼロックスの地域のみらい創り活動が、これからどんな素敵な遠野のみらいをつくっていくかがとても楽しみです。

遠野みらい創りカレッジの詳細はこちら

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工藤瑞穂。 「soar」プロジェクト代表・編集長、「HaTiDORi」代表、ダンサー、元日本赤十字社職員。1984年青森県生まれ。宮城教育大学卒、青山学院大学ワークショップデザイナー育成プログラム修了。NPO法人ミラツク研究員、Webメディア「マチノコト」ライター。

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